井上正吉さんの畑紹介

  • 2016.06.14 Tuesday
  • 10:00
関戸の谷戸で代々種を継いで
 
 
井上正吉さん。御年98歳。





関戸で代々引き継いできた農地で、今は自家用に野菜を育てています。
井上さんの畑は、多摩市役所の裏手。都道18号線がすぐそばに走っていますが、木々が茂り、鳥のさえずりが聞こえる静かな場所です。



 
現在パルテノン多摩ミュージアムで開催されている、多摩地域に残る「谷戸(やと)」とその地を生かした農業の歩みを展示した特別展「多摩の谷戸と農のいとなみ」で、井上さんの畑の1年間が紹介されています。
担当学芸員の仙仁(せんに)径さんが、井上さんの畑に足を運び1年間取材しました。



畑を紹介する仙仁さん(左)と井上さん(中央)
 
谷戸とは、丘陵地が雨水などで浸食された浅い谷状の地形のこと。丘陵や樹林地で囲まれた環境が、湧水を作り湿地や小川を形成し、人々はそこにため池や水路、水田を作り農業に活かしてきました。人々が暮らす田畑のまわりに樹林、水辺があり、そこに多様な生き物が集まる、まさに里山です。
井上さんの畑は、多摩市に残る谷戸の1つ。井上さんが子どもの頃は、周りのほとんどが水田だったそうです。
 
 
5月の中旬、井上さんの畑におじゃましました。


井上さんは、えんどうや大根、小松菜などいくつかの野菜を、自分の畑の野菜から採れた種(自家採種)で育てています(現在の日本の農業では、種苗業者から種や苗を購入し栽培することが一般的です)。
自家採種のことを、多摩では「タネツギ」と呼ぶそうです。以前は、他にも自家採種で育てていた野菜があるそうで「大豆も5年前まではタネツギだったよ」と井上さん。
何千と採れる種の中から種蒔きに使う良質な種を選別するのは難しそうですが、
「種を見て『こいつは芽が出るな』と思ったら出るんだよ」と笑いながら井上さん。
代々継いできた種に、愛情をもって向き合う井上さんのやさしさを感じます。
 
 


大根の種の部分は、いんげん豆のよう。
 

蔵には、祖父の頃に使っていた珍しい農具や、知人から譲り受けた昔の農具などが収められていました。



アユ漁の網もありました。

庭には、多摩市の代表的な植物「タマノカンアオイ(多摩の寒葵)」。里山の落ち葉の中でひっそり開花する花なのだそうです。


絶滅危惧種に登録されてる貴重な植物です。

畑を回った後、井上さんに野菜や自家採種について話を聞きました。


仙仁さんが「コマツナ」について相談した
明治大学農学部の元木先生と学生たちも一緒に
井上さんの話に耳を傾けます。 
 


話を聞きながらいただいた
自家製えんどうの豆ごはんとおはぎ。
絶品でした〜♪

 
今、仙仁さんが注目しているのが井上さんの「小松菜」です。仙仁さんが井上さんに「小松菜」と紹介された野菜が、どうも小松菜と違う。一般的な小松菜よりも、淡い緑でしゃもじのような形の葉。小松菜というより白菜に似た印象を受けたそうです。

残念ながら今年はすでに小松菜の収穫を終えていたため実物を見ることはできませんでしたが、畑に残った小松菜の根を示し
「この根の少し膨らんでいる形は、一般的な小松菜と異なります」と
仙仁さんが小松菜との違いを説明してくれました。



 
「小松菜と呼んでいるけれど、小松菜ではないかもしれない」ということで、仙仁さんは「コマツナ」と仮に表記。
「多摩市特有の野菜かもしれません」と、在来野菜への期待が膨らんでいます。



畑には、落ちた種からコマツナの芽がたくさん出ていました。

多摩市には、井上さんのように自家採種で野菜を育てている農家さんがいます。自家採種を続けるには大変な面もあると思いますが、100年以上、毎年コツコツとつなげてきた先祖伝来の種。これから先もつないでいけるよう応援したいですね。

(K)

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